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バッグを抱えると、ちょっとだけよろめく足取りで電車を降りた。
もうそろそろ、ICカードじゃなくてスマホアプリにしようかなぁ。
イマイチ決心がつかなくて、いまだにカード式なんだよね。
人の波に押されて改札口を抜けたとき、後ろから来た人に押されて手が滑ってしまった。
バッグの中にしまいかけたケースが、雨水に濡れた床にパチャリという音を立てて落ちてしまう。
「やだ、もう。濡れちゃったじゃない…」
ブツブツと愚痴りながらハンカチでケースを拭い、バッグの中にしまう。
雨はさすがに振り方を増していて、自転車で帰るのはちょっと躊躇われた。
でも、今日は傘持ってきてないし。
歩いて帰ったらズブ濡れになっちゃう。
タクシーは……ダメだ。
全部出払ってる。
しかも、長蛇の列が出来てるし。
仕方がない。
濡れる事よりも、早く家に帰れる事を優先するか。
駅の駐輪場から自転車を引っ張り出すと、雨の中、ペダルを踏み込んだ。
この程度の雨なら、大丈夫かも?
酔いを醒ますのにも丁度イイか。
明るい、バイパスへ向う道を走り始める。
早く帰って、熱いお風呂に入って、温まって寝よう。
明日頑張れば、休みだし~。
雨の降る夜道を自転車で走るのは、かなり気を使う。
視界も悪いし、路面の状態も悪い。
なおかつ、ドライバーのマナーも雨の状態に比例して悪くなるのはどうしてなんだろう?
道路のくぼみに溜まる水を盛大に跳ね上げ、スピードをあげて脇を走り抜けていく車の列に、ワタシは小さく舌打ちをした。
しょうがない。
次の信号で、曲がろう。
そうすれば車の量も減るし、スピードもあげられる。
そう判断したワタシは、丁度替わり始めた信号目指してペダルをこぐ足に力をこめた。
「ギリギリ、セーフ!」
信号が変わりきる前に、道路を渡ることが出来た。
「信号待ちで、余分に濡れたくないしね」
でも、何だろう。
今日はやけに自転車のペダルが重いのよ。
雨で路面が濡れてるからかな?
「それに…しても…重いわ…」
おっかしいな。荷物なんか乗せてるわけじゃないのに。
そしてワタシは気が付いた。
「マズイ…こっちって、あの道に出るんだった」
よく考えもせずに曲がってしまったけど、あの「例の道」に出るんだ。
参ったな……。
まるで呼ばれてるみたいだ。
雨まで降ってるしさ……。
『お姉ちゃん、呼んだよね?』
不意に耳元で声がした。
「え?」
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