戦場のバレンタイン

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「そんな! ここで朽ちるつもりですか!」  今日は、バレンタインデー。  人の命を奪っていた鋼鉄の弾丸は、チョコレートでできた愛の弾丸となっていた。  屍となった戦友達に目を向ける。だらしなく顔を緩め、とろけそうな顔で敵の凶弾を食らう姿。こうなってしまったら、彼らはもうこっちに帰ってはこれないだろう。 ……むごい。これでは生きる愛の屍だ。 「朽ちるつもりなどない。これでも、第60次世界大戦をくぐり抜けてきたからな」 「あ、あの”狂気の花束大戦”の生存者だったのですか」 「むせ返るような花草の匂いは今でも忘れないさ。敵の花束を送られた味方は、今じゃ皆お花屋さんをやってるよ。……幸せそうにな」 「……そ、そんな」  俯き目を背ける部下の肩を叩く。 「そういう訳だ。あの時に比べれば、ここは不幸せもいいところだよ」 「隊長……」 「さぁ、分かったら撤退準備をするんだ。撤退中でも、いつ相手のチョコが飛んでくるか分からないんだ。頼んだぞ」 「了解!!」  覚悟を決めた表情で敬礼する彼。それに敬礼で返せば、彼は命令を実行するために走っていた。  ザッ。  足音を大きく立てて仁王立ちする。自分の前方を取り囲むように立ち、チョコを構える敵兵達。兵力差は圧倒的不利。しかし、後ろには撤退中の味方がいる。  首に下げていたハートのロケットペンダントを服の下から取り出し、娘を妻の写った写真を見る。 「こんなところで、やられるわけには行かないよな」  ペンダントをしまい代わりにチョコを手に吼える。 「ここは、絶対に通させやしない。 ハッピーバレンタイン!!!」  今日はバレンタインデー。  弾薬の匂いと血の匂いで包まれた戦場の中、血に染まった手を穴の空いた胸をに置き男は妄想する。  ピースフルではないかもしれないれど、そんなハートフルな世界だったらバレンタインも大好きになっていたかもなって思う。
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