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元気に走り回っていた息子が、俺の方に向かって来ると、笑顔で両手を広げる。
「パパ!」
その小さな体を受け止めて、抱き上げた。
息子は今年で4歳になる。明るい髪色と可愛らしい顔つきは妻の美希にそっくりだ。けれど性格は俺に似ている。元気すぎるくらい元気で、明るくて、人見知りもしない。
ーーそんな息子を最近、とある人物に会わせたことがあった。
俺と美希の親友で、18歳という若さで亡くなった吉野圭という少年を知っていると言った、あの子だ。あれから縁があってまた会うことができ、名前を聞けた。彼の名前は、赤崎秋。
息子を連れて彼のマンションまで会いに行った時、息子は嬉しそうに彼に飛びついて、遊んで遊んで、とねだった。
そんな息子を穏やかな微笑みを浮かべて抱っこしていた彼だったが、急に泣き出しそうに顔を伏せて、ぎゅっと息子を抱きしめると、その唇から震えた声で小さく「圭…」と呟いた。
俺は今、自分の腕の中にいる息子を見つめる。
息子は圭の生まれ変わりだと、時々そう思うことがある。ならきっと、そうなんだろう。
赤崎君は、あの時そばにいた女子生徒と、高校を卒業する時に付き合い始めたそうだ。
そしてお互い、将来結婚の意思があるそうで、それを恥ずかしそうに話してくれたーー。
「…?圭介、その飴はどうしたんだ?」
ふと気づく。息子の小さな手には、棒付きの飴が握られていた。
「もらったんだよ」
息子はそう答えた。
公園には子連れの家族がたくさん居る。お弁当を食べたりするスペースもあり、お菓子をもらったりする事は珍しくない。
「そっか、ちゃんとお礼は言ったか?」
「ううん。どっかいっちゃった」
「男の人だったか?それとも、女の人?」
「ちがうよ。キツネさん!」
そう言って、息子は無邪気に笑う。
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