一ノ瀬彌勒

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   ○○○  紳士、元い依頼主の一ノ瀬さんに邸宅内へと案内された僕は、想像以上にシンプルな内装に驚きを隠せないでいた。  何となくお金持ちそうだと感じたのは、赤い絨毯と通路壁に間隔を開けて飾られていた絵画、玄関先の広間にぶら下がっていたシャンデリアくらいだ。その他には本当に何もなく、外装と同じく白い壁、床が広がっているのみ。何だかそれに凄く見覚えがあり、心なしか落ち着いてしまうのは何故なのだろうか。  あまりお金持ちだという事を鼻に掛けない一ノ瀬さんには、引き続き好印象を抱いている。が、それ以上に疑問に思ったことがある。彼が迎えてくれた時から感じていたのだが……。  前を歩く一ノ瀬さんに質問を投げかけた。 「すいません、少し聞きたいことがあるんですけど」  足を止める事無く、一ノ瀬さんは肩越しに僕へ振り返る。 「ん? どうしました?」 「はい。さっきから気になっていたんですが、此処には一ノ瀬さん一人で住んでいるんですか? 何処にも使用人や家族、のような方が見当たらなくて」  そう、本当に誰も居ないのだ。一ノ瀬さんの言う応接間まで結構距離があるようで、案内される道中、講堂や使用人の休憩所みたいな部屋を目にしたのだが、全く人の気配がしなかったのだ。普通、というか僕の思い込みかもしれないが、こういったところって使用人の一人や二人は雇っているのが当たり前ではないのか?  昔依頼で忍び込んだ富豪宅では、隠密行動が嫌に成程メイドさんや執事が居たような覚えがあるが……。  僕の問いかけに何故か足を止めた一ノ瀬さん。それに慌ててぶつからぬよう止まった僕。 「あー……そこはまた追々お話する、という事で」  立ち止まった彼は、視線を上に向け、何処か困った様子で頬を掻いた。あ、これもしかしなくても地雷だったかな。申し訳ない事したか――あれ、でも護衛対象の一ノ瀬彌勒はどうしたんだ?  消えては湧いて出てくる疑問にうんざりしつつ、何かを隠すような一ノ瀬さんに少し懐疑心が芽生えてしまう。だが、ここは少し引いておこう。たぶん、今出た疑問は直ぐに解決されるだろうし。

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