政略結婚

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「オリビエ様のことを教えてください、メアリー」 私が問いかけると、メアリーはそれを待っていたかのように、手元のメアリーのお勉強ノートを広げる。 そこにオリビエ様のことも書かれてあるらしい。 私に教えてくれるためにメアリーはいつも勉強熱心だと思う。 「オリビエ様は隣国、ロウエン国の王太子様です。上に2人の兄がおられますが、素行や勤勉さなどからオリビエ様が国を継がれることになっておられるようです。ご年齢は今年18。アニエス様の6才年上となられ、第一夫人にレガリア国出身のマリー様、第二夫人にトスティアナ国出身のカトリーヌ様がおられますが、共にお子は成されておられません」 「…嫁が多いですね」 「ですから、アニエス様はここでの暮らしのように何をすることもなく、オリビエ様に求められたら子を成すことだけを考えればよろしいのです」 なにもしなくていいならいいけど。 なんで嫁がいるのかもわからない。 私はこの国でもどうして生まれてきたのかも、よくわからない。 嫁に出るためだけに生まれて育った。 そんな気もする。 わからなくても私は嫁ぐ。 ただ、私が嫁ぐ予定だった王子様はお父様が崩御されて王様になった。 まだお父様が亡くなったばかりなのにいいのかなぁと思っていたけど、私は予定通りの日程でロウエン国から迎えにきた馬車に乗せられて、嫁入りをする。 私の荷物は手に持てるほどの鞄一つだけ。 お見送りはメアリーが他の侍女たちとしてくれた。 お父様もお母様も迎えの者たちと挨拶をしただけで、私はあまり話していない。 遠目にそのお姿を見ていただけ。 二度と会えない人だと思う。 国の外へ嫁に出されたお姉様のお姿は見ていないから。 私もそうなるのだろうということはわかっている。 私は寂しいのだけど。 そんなふうに泣いて困らせてみたくも思う。 それでも涙はこぼれなかった。 人前で泣かないようにと、はしたない姿を晒さないようにと、メアリーに教育されたから。 「アニエス様、どうかお元気で」 そんなメアリーの言葉と、その目に浮いた涙。 馬車に乗る前の踏み台でメアリーと同じ視線の高さになって、私はメアリーの頬に手を当てた。 「今までありがとう、メアリー。メアリーも元気でいてくださいね」 笑みを見せるとメアリーは涙をこぼしながら頷いてくれた。
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