597人が本棚に入れています
本棚に追加
がたごとと馬車に揺られる。
知らないおばさんとおじさんの乗った馬車。
過ぎていく馬車の外の景色を黙って眺めていた。
他にすることもない。
隣の国とはいっても、かなり遠いのだろう。
ずっと座っているのも疲れそう。
というか、もう疲れた。
でも疲れたとも言えない。
声をかけていいのかもわからない人たちと同席している。
行儀よく座っているしかない。
「そろそろ国境となります。アニエス様はロウエン国の王妃として迎えることになります」
おばさんが話しかけてきて、私はおばさんを見る。
オリビエ様もまだ見たことないけど。
私は王妃になる。
それはわかっている。
「この結婚は政略結婚です。アニエス様のお国を我が国の力で守るという約束のため、アニエス様は我が国にこられるのです。まだまだお子様であられるアニエス様には、はっきりいって無関係なことでしょうけれど、アニエス様にはしっかりと我が国の王に仕えていただきたく思います」
おばさんの視線はとても冷たい。
その口調もどこか私を王妃として迎えたくないと言いたそうな、嫌そうなもので、とても歓迎している感じはしない。
おばさんと視線をかわしているのは、少しつらい。
どこか睨まれているようで怯えそうになる。
「はい。…侍女のようなことをすればよろしいのでしょうか?」
「そうですね。アニエス様に仕えさせる侍女もまだ正式に決めてもおりませんし、アニエス様のようなお子様を王の妃にと差し出されても、こちらも困っていたところです。アニエス様にはお一人で暮らしてもらうのがよろしいかと思われます」
おばさんはにこりともしないで、淡々と話す。
一人で…暮らす?
私はオリビエ様に…、王様に嫁ぐのではないの?
「待ちなさい、ブレゼ。王の断りなく、その妃の処遇を決めてはいけませんよ。…アニエス様、ご安心ください。私は王の代理、ビアナ地方を治める公爵、ラドクリフと申します。私がアニエス様の後見としてついていますので、ご不自由はさせません」
おじさんはおばさんを止めて、私に優しく言ってくれる。
年は50代だろうか。
燕尾服を着たおじさん。
その手元にはシルクハットと杖がある。
貴族というもの。
最初のコメントを投稿しよう!