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「ビアナ公爵様、このような細くて小さいだけの子供に肩入れしたところで、あなたの治める領土が広がることもございませんよ?」
「ブレゼ、その口を慎みなさい。たとえ王家の執務を執っているとはいえ、あなたは出すぎです。いずれ王にクビを切られますよ」
「あの王では若すぎますから。娘婿に王の兄を迎え入れ、更には幼いばかりの妃に取り入るなど、王家の乗っ取りでしょう?ビアナ公爵様もその透け透けの下心を隠していただけませんか?」
「そのような腹積もりはないと言っているでしょう?私があなたのクビを切るように王に進言しますよ?」
「お好きになさればよろしいではありませんか。殿方はどのお方も地位と名誉と金ばかり。このような方々にしか囲まれぬくらいなら、アニエス様にはお一人でいてもらったほうが、余程安全と言えるもの。手駒としていつどう仕込まれるのか」
「ブレゼっ!」
目の前でなにか言い争ってるのはわかるけど、私には止められそうにない。
ただ、ブレゼさんを信じるとまわりの誰を信じていいのかわからなくなる。
ラドクリフ様を信じて私欲に動かされるのは私も嫌だと思う。
でも私にはメアリーもいない。
私を知る人もいない知らない国へと向かっている。
ラドクリフ様をできれば信じていたい。
私は一人ぼっちだから。
頼ってもいいと言ってくれる人がいたほうが安心できる。
「国境です。当初の予定通りに町に立ち寄りますよ」
御者席にいた男がブレゼさんとラドクリフ様の声を聞いているのかいないのか声をかけてきた。
ブレゼさんとラドクリフ様は声を止めたはいいけど、睨みあったまま。
馬車はゆっくりと止まった。
御者が扉を開けてくれると、その手を借りて私は馬車からおりてみた。
こんなところにはきたことがない。
国境の町。
城から出たことがないとは言わない。
それでもこんな遠くの町まできたことはなかった。
ざわめく砂埃の多い町。
町を二つに分断するかのような砦があって、そこで兵士が検問をしている。
私の育った国と私が嫁ぐ国の両側で。
町は私が育った国のもののようで、砦の向こうには町らしきものは見えない。
メアリーに声をかけようとして振り返ると、馬車から降りてきたのはブレゼさん。
そうだった。
メアリーはもういない。
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