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「そのようなみすぼらしいドレスはここで脱いでいただきましょう。アニエス様、こちらへ」
御者の手を借りてブレゼさんはおりてくると、私を案内するように大きな建物の中へ入っていく。
入口にはロウエン大使館と書かれた看板がある。
ブレゼさんについて中へと入ってみると、お城の中のような立派な屋敷。
ここでパーティーも開けそうなほど広い。
ブレゼさんが手配をしていたのか、屋敷の中には数人の侍女のような女性が待っていた。
私はブレゼさんに言われたとおりに、別室に連れていかれて、女性たちに手伝ってもらって、ロウエン国のお姫様が着るというドレスに着替える。
靴も下着もすべて。
用意されていたドレスはだけど、私には大きくて。
これに似合うような女性を望まれていたのだというのはよくわかった。
ドレスの寸法はその場で侍女のような女性たちが直してくれる。
「アニエス様が身につけられていたものはいかがいたしましょう?」
「すべて処分なさい。準備ができたらアニエス様は階下で休憩をさせて。……まったく、ルーベンの王と王妃にやられたわ。王もさぞかし嘆かれることでしょうね」
「ブレゼ様が反対なさるのなら、取り止めていただいてもよろしかったのでは?ルーベンの姫を迎え入れるのは先王様が決められた約束でございましょう?ロウエンにはルーベンへ助力はしても、助力いただくこともございませんでしょう?」
「未熟な若き王には先王様が残された約束を違わすこともできないのよ」
ブレゼさんと女性が話す言葉をただ耳に聞いていた。
その国の人のいうとおりにしなさいとメアリーには教わった。
だけどすべてに不安になってきた。
今ならまだ戻れそうで、城のある方角を窓から眺めた。
でもきっと城に戻ることはできないのだろう。
私は人質みたいにお父様とお母様に売られた。
受け取りたくもないけどこの国の王様が受け取った。
ブレゼさんとラドクリフ様のお話からそんな理解ができた。
戻っても私を歓迎してくれる人はいないし。
王様も私を歓迎してくれることはない。
それでも私は嫁がなければいけない?
子供だとまわりは言うけれど、私だって少しは物事を理解できる。
どこにもいく場所がない。
一人で生きるすべもない。
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