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なんで?
2月14日、バレンタインデー。
女性から男性への愛情表現が大っぴらに奨励されるこの記念日は、ここ日ノ森高校に於いても例外ではなく、大いに生徒間の恋愛指数を跳ね上げているそうだ。
まぁ私としては、その恩恵に与れるはずも無しとわかりきってはいるのだが、今年に限って言えばそうでも無かったらしい。
「先輩!バレンタインデーですね!」
「・・・おう」
放課後。非常階段踊り場。
目下ここ数年、私だけの領地としてきたこの場所に、山本 小春なる一年生が乱入してきたのは2月に入って間も無くのことだった。
縄張りの絶対的守備を旨とする私としては彼女は畏怖の対象でしか無かったのだけども、一目でこの場所を気に入ったらしい彼女は連日非常階段を訪れた。
そして私は、今日までのほんの数日のうちに、織田信長も裸足で逃げ出す勢いと強引さでもって領土侵犯をかけられ続け、渋々ながらも同盟を承諾する羽目になったのが昨日のことである。
「せんぱぁーい、はいチョコレート!」
「・・・要らん」
「なんですと!?」
大げさに憤慨している小春には申し訳ないが、私はチョコレートが死ぬほど嫌いだ。
食べた事は無いのだが、もう見た目からして嫌だ。
まず色。黒だ。いや漆黒だ。元来黒い食べ物というのは腐っている可能性を秘めている。どんなに美味しいものでも放置すればカビが生え、腐り、黒いデロデロしたものへと成り下がる。
そして硬度。硬い。硬すぎるのだ。1度興味本位で板状のブツを触れてみたことがあるのだが、あれは食品として致命的に硬かった。アレを頬張り噛み砕いてみたならば、口の歯茎という歯茎に突き刺さり目も当てられない惨事となるは自明の理であろう。
「えー・・・せっかく手作りしたのになぁ・・・」
「・・・いや、その心意気は大いに有り難いのだが、食べられんものは食べられんのだ。そもそもバレンタインデーなぞ私には理解できるはずもなかろう」
「えー!そんなことないですよ!先輩は女の子に絶対モテモテですよ!」
「いや・・・そんなことを言われてもだな・・」
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