第1章

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(なんか…子供の頃の夏休みを思い出す…) しばらくこんな風の匂いを嗅いだことは無かったなともの想いに耽っていると、 いきなり水中の足を取られ一気に世界が水の中に沈んだ。 ゴボゴボという音に咄嗟に閉じていた目を開けると、 長谷川さんが目の前で人差し指を自分の唇に当てていた。  『しー』 とでも言っているように。 水の中は何とも不思議な世界だ。 広いような狭いような。 浮き上がろうとする俺の肩を彼の手が押しとどめ、 スゥッと体を寄せると、 ものの見事にキスを奪っていった。 (なっ…) 軽くウインクを決めるとそのまま壁を蹴って逃げていく。 本物の魚のように、 腕を使わずしなやかな体から繰り出すドルフィンキックだけで。
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