第2章 外の世界へ

32/34
77人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「グロリアはユピテルにいる・・・・・・ユピテルって確か、港沿いにある工業地帯の街ですよね?」  エリスが知識に半分自信がない言い方をしてエドワードが詳細を述べる。 「ええ、あの街はニューオルレアンで最も大きな波止場であり、多くの輸送船が貿易のために欧州大陸を行き来しています。恐らく、グロリアはそこを支配する事で、この国への物資の輸入を阻害しているのでしょう」 「この国を孤立させる気なのかも知れませんね。物資がなければ、この国の経済はまともに動かなくなります」  セシールも如何にも図星を指していそうな推測をする。 「エドワード?ユピテルってどんな街なの?」  エリスが足を運んだ事もない地域について尋ねる。 「探偵の仕事で何度か行きましたが、正直に申し上げれば、品格のあるとは言い難い所でした。アルコール絡みで起きる絶えないケンカや金属の臭い、煙の息苦しさ。一言で言えば不衛生な場所です」 「私も聖書の教えと寄付を目的として何度か足を運んだ事があります。街の治安はお世辞にもいいとは言えませんでしたが・・・・・・」  清廉な意思を持つセシールでさえも、あまり好印象を抱いてはいない様子だ。 「例え、どんな場所でも罪のない人々のために命を懸ける。それが私達、騎士団の役目よ」  すっかり、勇敢な精神を身に着けたエリスは迷う事なく、決心を固める。その逞しい人格が、アビー達の尊敬を集めた。 「エリスが正しいわ。私達に立ち止まっている暇はない。貴重な時間を無駄にするだけ、敵に有利な立場を与えるだけよ」 「そうですね。行動こそが先手を打つ唯一の手です」  エリスは決心を固め、今後の計画を皆に伝える。 「私とエドワードは次にユピテルの街に行き、グロリア・ヴィンデバルトを暗殺します。私の故郷であるニューオルレアンを取り戻す!」  エリスは、そうはっきりと誓いを宣言した。アビー達は勇敢な少女を見つめ、感心が込められた想いと共に頷く。 「死告鳥の暗殺は勿論ですが、ジャンヌ・ル・メヴェルの捜索も視野に入れておかなくてはなりませんよ?」  エドワードは冷静に、重要視すべき本来の任務についても指摘する。 「そうね。でも、セシールを救った以前のように、危険過ぎる橋は渡らせないわ。次の任務には協力者がいた方が心強いわね」 「協力者?」  アビーの発言にエリスは真面目な顔で関心と期待を膨らませる。 「ユピテルの街にも、騎士団の精鋭や頼りになる人材が多くいる。次は"ジェームズ・リンカーン"という男を騎士団に招き入れるべきね」 「ジェームズ・リンカーン?何者ですか?」 「英国海軍に所属する軍人よ。最新鋭の軍艦を所有する艦長でもある。そして、ジャンヌ・ル・メヴェルに接触した数少ない人物の1人」  エドワードはアビーの考えを読み、結論を出した。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!