78人が本棚に入れています
本棚に追加
またしばらく裏路地を進み続けようやく出口まで辿り着いた。狭い隙間の向こうで目的地である隣町が見える。恐らくあそこがテラで間違いないだろう。エリスはすぐには抜け道を出ず中から外の様子を窺った。
街は川の向こう側にありすぐ横に橋が見えた。賑やかそうな地域のはずなのに人間の姿もない。だが、その環境は彼女にとって好都合な事だった。
「人がいない。この間に探偵事務所を探すとしましょう」
エリスは裏路地から出て橋を渡った。足を走らせ川沿いの酒場を通り過ぎ街へ入る。人の気配もなく、まるで廃墟のようだが、見張られているみたいで少々不安になる。
「えっと、42番地のルーカス探偵事務所は・・・・・・」
看板を頼りに目的の建物を探した。始めてここに来たエリスは当然、道に迷ってしまう。それに追い打ちをかけるように曇った空から雨が降り始める。
「はあ・・・・・・」
静かにため息をついて、ひとまず休息を取る事にした。その辺にあったベンチに座り落ち込んだ姿勢で背中を丸める。
「どこにも探偵事務所なんてないじゃない・・・・・・」
と不機嫌な口調で愚痴を零す。どこを探しても目的地を示すものなどなかった。手掛かりがあるとすれば1枚の写真だけ。今になっても街から人影は現れない。冷たい雨が地面に降り注ぐ寂しい広場に少女が1人いるだけだった。
「もう一度、隠れ家に戻って正確に道を聞こうかしら・・・・・・」
そう諦めかけた時、
「どうしたのですか?お嬢さん」
ふと前から声がした。エリスは体を一瞬震わせ、顔を上げる。
声の正体は30代前半くらいの男だった。ネクタイを締め、黒いスーツと長ズボンを着こなしている。整えられた短い黒髪、不気味にも優しい目つきで相手を見下ろす。
「この寂しげな街で何をなさっているのですか?」
男は礼儀正しい口調で質問を繰り返す。エリスへ視線を集中させながら。
「ルーカス探偵事務所を探しているんです。でも、どこにあるか分からなくて・・・・・・」
疲労が溜まり、エリスは気の抜けた声で答える。
「なるほど、でしたら幸運ですね。あなたのお探しになっている人物は"目の前"におりますよ」
「え!?」
エリスは驚愕の声を上げ、急に椅子から立ち上がる。突然の衝撃に言葉が出ず目を丸くして男を見た。だが完全には信用せず、半信半疑の意で
「もしかして、あなたがエドワード・ルーカスさん?」
問いを聞いた男は堂々と答えた。
「如何にも。未熟ながら、ルーヴェルの騎士団に仕えている私立探偵でございます」
エリスは探していた人物だと確信し、安堵した。
「騎士団を知っているなら嘘ではないわね。でも、見知らぬ人間に自分が組織の一員だと打ち明けちゃっていいんですか?」
「私はあなたが騎士団に入ったばかりの新人だと熟知しております。そして、暗殺未遂事件の濡れ衣を着せられているという事も」
「え!?どうして知ってるんですか・・・・・・!?」
「ここにいては、雨に濡れてしまいます。続きは私の事務所で話しましょう。依頼人であるあなたに風邪を引いてはしまっては面目が立ちませんので。こちらです」
最初のコメントを投稿しよう!