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服に着いた雨水を払い、探偵事務所に足を踏み入れる。中は黴臭い臭いが立ち込め宙に埃が飛んでいた。2人は1階ではなく階段を通り、2階へと上がる。
「ルーカス探偵事務所にようこそ」
オフィスにて、エドワードは彼女をテーブルの向かいに座らせ、置いてあった煙草に手をつける。パックから1本取り出し火をつけ、煙を大きく吸い込んだ。
「では、エリスさん。用件を伺いましょうか?」
エリスは、"まずはこれを"とアビーに頼まれていた封筒を手渡す。
「ふむ、南北戦争時代に使用された封蝋が押されていますね・・・・・・もしかすると、あなたにこの手紙の配達を頼んだのは、アビー様でしょうか?」
「え!?どうして、分かるんですか!?」
エドワードは大して自慢げじゃなさそうに赤い蝋を指さし
「この印をお使いになるのは彼女くらいですからね。ふっ、南北戦争の英雄から期待されるなんて、恐れ多いですね」
封筒の上部をレターオープナーで切り中から手紙を取り出す。それを全て広げ、最初から最後までゆっくりと目で読み上げる。今まで以上に険しい顔をして真剣にしてしばらく文字を眺めていた。
「なるほど、そのような用件でしたか・・・・・・」
ようやく読み終わった手紙をテーブルに置いた。すると、彼は困ったように指でこめかみをかき始める。小声で何かを呟き、煙を強く吸い大きく吐き出した。
「なんて書いてあったんですか?」
「あなたにとっては有益な内容ですが、私としては不都合な頼みです」
エドワードはそう言って、内容を答える。
「あなたの任務に私も同行せよ・・・・・・手紙にはそう記されておりました」
「本当ですか?私立探偵であるあなたが一緒なら、とても心強いです」
エリスはエドワードの予想通り嬉しそうな声を出す。やっと孤独から解放され安堵と歓喜を同時に抱く。だが、少し気になる点も存在した。
「でも、どうしてあなたにとっては悪い話なんですか?」
少女の問いにエドワードは言いにくそうに
「悪い言葉に捉えないでほしいのですが、騎士となって、ひと月も経たないあなたは、まだ器用には戦えないではず。私は腕は立ちますが、他者を守れる自信がないのです。生憎、戦いが専門ではないもので」
「私なら、大丈夫です。決して迷惑はかけません!」
エリスは無理に強がり余裕の表情を浮かべた。早速、本題に移り、持って来た少女の写真を指差す。エドワードは何食わぬ顔でそれを手に取りじっと見つめる。
「ジャンヌ・ル・メヴェル・・・・・・この少女を一緒に探してほしいんです」
彼は少し驚いた様子を目に見せ、静かに口を開いた。
「まさか、この少女の捜索に私を任命するとは・・・・・・とんでもない仕事が舞い込んだものです。1000ポンドの報酬があっても足りないくらいです」
「やっぱり、無理そうですか?」
エリスが真面目な態度で聞く。だが、彼は表情を変えずに肯定的に堂々と答えた。
「いいえ、仕事は引き受けます。事実、私達の将来に関わる事ですので。エリスさん。あなたにとっても、決して他人事ではありませんよ?」
「ええ、分かっています。私は騎士団に忠を尽くすつもりです」
目の前の子供の覚悟にエドワードは感心し静かに笑った。写真をテーブルに戻し、腕と足を組んで並べられた物を見る。
「この写真以外、ジャンヌ・ル・メヴェルに繋がる手掛かりはありませんか?情報がなければ、捜査のしようもないないですから」
「ありますよ」
エリスは次に数人の名前が書かれたリストを差し出し彼に見せた。
「リストに書かれているのは、ジャンヌと接触している可能性がある人物達の名前です。この人達に会いに行けば、手掛かりを得られるかも」
「なるほど。この4人に接触すれば、ジャンヌの居場所が分かるかも知れないのですね?名前は全て記憶しましたから、十分な休息を取った後で行動に移すとしましょう」
「え?もう記憶したんですか?」
「私を誰だと思っているのですか?こう見えても、騎士団に加入する以前から指折りの探偵だったんですよ?それにリストの何人かは知ってる人物達です。簡単に暗記できました」
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