ラジオ放送

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ラジオ放送

 県境にあるそのトンネルにはちょっとした噂がある。  トンネルに入る前にFMラジオをつけ、走行中にチャンネルをいじると、存在しない局に繋がるというのだ。  試したら、聞いたこともない言語で延々DJが喋り続けている番組を聞いた、とか、トンネルを抜けるまで、ずっと葬送が流れ続けたとか、色々話しを聞くけれど、俺はお菓子放送を聞いたことはないし、友達の中にもそういったラジオを聞いた奴はいない。  だから余計に、一度くらいそういう体験がしてみたくて、トンネルに入る時はラジオをつけるようにしていた。  そのかいあってか、ついに俺は奇妙なラジオ放送を耳にした。  前に噂で聞いたような、どこの言葉なのかも判らない言語でDJがひたすら喋っている。残念ながら途中で、渋滞をきっかけに人身事故が起きたという緊急ニュースが入り、それが流れている間にトンネルを通過してしまったが、 間違いなく噂のラジオ放送だった。  人間、こんな体験をするとちょっと人に言ってみたくなるもので、友達と会った時、自慢のつもりでこの話をしたのだが、俺の怪奇体験は残念なことにまったく怪奇なものではなかった。  同じ日、同じ頃、友達も近辺を車で走っていたのだが、俺が聞いたのとまったく同じ放送を聞いたというのだ。  そいつの話によると、何かの番組に外国のタレントさんがゲストで来ていて、その人が乞われてDJの真似事をしたらしい。  あまりに拍子抜けな結末にがっかりしたが、話す内に多少の食い違いが出た。  俺は途中で緊急放送が入ったため、実はラジオのDJハ海外のタレントさんだったというオチを聞き逃していたが、俺が聞いたその緊急放送が、友達のラジオでは流れなかったというのだ。  そういえば、その時は怪現象が中断したことに気を取られ、事故の内容をかなり聞き逃していたけれど、今になって思い出してみると、あの事故は俺が走っていた付近で起きたと言っていた気がする。  お前の聞いたニュースこそが噂通りのものだと、友達ははしゃいだ様子で言うけれど、俺にはもう、ラジオのことで浮かれる余裕はなかった。  友達が聞かなかった、やたらとリアルな事故の状況放送。聞いてしまった俺は、もしかしたらこの先、ラジオ通りの事故に巻き込まれるかもしれないのだ。  加奈不便になるけれど、今後、あの高速を使うのはやめようと思う。 ラジオ放送…完
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