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「あっすみません、次の交差点で左に曲がって下さい。で、真っ直ぐ行って突き当たりで停めてください」
運転手さんに指示を出す。メーターを見て心臓がヒヤリとした。
私の一週間分の食費が……。
財布を出そうとして彼に止められた。
「俺が送ってくって言ったんだから、いらん」
「じゃあ、半分だけでも……」
「お前に金の心配される程不甲斐なく無い」
「……すみません。じゃあ、こ……お言葉に甘えます」
今度お昼ご飯ご馳走しますと言い掛けたが……止めた。
本当はそんなこじつけですら一緒に居たいと思ってしまう。
下心ありながら二人きりになるというにはあまりにも彼の恋人に失礼だ。
いや、今日で『好き』は終わらせるから下心なんてもう存在しないはずなんだけれど……。
丁字路でタクシーが停まる。
彼が財布を取り出して支払いをしているのを見てはたと気付いた。
「え?主任?」
「ほら、降りるぞ」
「え?あ……いや、え?ちょっと待ってください、だって主任は……」
先に降りた彼が私の手を引き降ろさせる。
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