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ゆうき君が部屋に入って来た。パイプ椅子に座っているぼくを見て、無表情でドアを閉める。ぼくの向かいの椅子に座り、テーブルに置いてある煙草を吸い始めた。
ゆうき君は、ぼくの二か月あとに入って来た大学生だ。入って来て早々、他のアルバイトや社員の女性に気に入られ、男連中には可愛がられた。ゆうき君は男前で背が高く、仕事を真面目にこなす。誰とでも仲良く話し、気難しい社員のオバサンにだって愛想がいい。客にも気に入られているようで、ときおり差し入れをもらっていたりする。
「ダルいですね」
ゆうき君の声に、はっと我に返った。煙草を口にくわえながら、膝の上で漫画雑誌に視線を落としているが、どうやらぼくに話しかけたらしい。
「そ、そうだね」
『そ』が喉からスムーズに出て来なかった。咳払いをしたが結果的にしゃがれた声しか出なかった。ゆうき君は雑誌の上に落ちた灰を手で払い、ページをめくった。
「そうだ、パン食べます?」
ゆうき君は軽い身のこなしで立ち上がり、ロッカーから袋を持って来た。細長いスティック状のパン。うちのコンビニの商品だ。
「廃棄するやつですけど」
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