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 そう言って袋を開け、パンを一つ取ってぼくの方に手を突き出した。ぼくはさりげなく受け取りたかった。友人や誰かに、こうして食べ物を分けてもらった経験がある人のように、こんな事何でもないと言う風に受け取りたかった。だが、ゆうき君の手にぼくの湿った指が触れて、手汗をかいている事がバレたらどうしようと言う事ばかりが頭の中を占め、指がうまく動いてくれなかった。ゆうき君の指が離れたタイミングでぼくの指が開いてしまい、パンはテーブルの上に落ちた。   「あ」  煙草の灰まみれのテーブルに落ちたパンをふたりで見つめた。  「もう一個あります」  ゆうき君は袋に手を入れたが、ぼくは慌てて遮った。  「大丈夫、だいじょうぶ」  落ちたパンを拾い上げ、口に入れた。チョコチップの入ったパンの筈だが、ほのかに苦い。ゆうき君の体温が残っているのか、少し温かかった。  「お疲れ様でーす」  アルバイトの女の子がドアを開けた。まず、ぼくに視線をやり、次いで手前に座っているゆうき君を発見し、顔を輝かせた。  「ゆうき君、お疲れ様」  「お疲れっす」  「聞いてよ、さっきさ、マジでムカつく客が来て・・・・・・」  女の子とゆうき君は話を始めた。その瞬間から、ぼくは煙草の灰でグレーに見える天板が載ったテーブルだとか、座る度に前後に軋むパイプ椅子だとか、薄暗い明かりを灯す蛍光灯だとか、なぜか所々へこんでいるロッカーなどと同じものになった。ゆうき君の隣に座った女の子は、弾んだ笑い声を上げながら、ゆうき君の腕に少しだけ触れている。     
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