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 客足が落ち着き、ぼくは入荷した商品を陳列する作業を始めた。レジ裏からゆうき君の「お疲れ様です」と言う声が聞こえた。棚から首を伸ばすと、私服に着替えたゆうき君がレジの女の子と話していた。  自動ドアが開いて、音楽が流れた。ぼくはお菓子の箱を並べながら、反射的に「いらっしゃいませ」と言う。  妙に店内が静かになったような気がする。  「きゃっ」  女の子の短い悲鳴が聞こえた。ぼくは棚から顔を上げた。黒い帽子がちらりと見える。  「ほら、早く、早く」  くぐもった低い声が聞こえる。心臓がきゅっと縮まったように感じ、口が渇いた。そろそろと棚の陰から顔を出すと、キャップを目深に被ってマスクをつけた男が、ゆうき君の腕を掴んでいた。
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