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遥の旅立ちの朝、俺は空港まで見送りにきていた。 あれから母親とは口を聞いていない状態だけど、 遥の見送りに行くことだけは何も言ってこなかった。 俺は何人かのクラスメイトに囲まれ、 別れを惜しんでいる遥を遠くからぼんやり眺めていた。 「あっちに行かないの?」 クラスメイトの女子の1人が話しかける。 「いいんだ、ここで」 「幼馴染でしょ、ちゃんとさよならしなさいよ」 そう言うと笑って俺の背中を叩く。ふと遥を見ると遥もこちらを見ていて、視線に気付いて慌てて顔を背けた。 そんな遥に愛おしさを感じて、俺は静かに近づいていく。 「遥」 遥は俺の顔をじっと見つめる。 あの時みたいに遥はもう泣かない。 覚悟を決めた顔で俺を見ていた。 けれど、俺も覚悟を決めてここにきた。 俺はまだ終わってない。あの日失恋したと思っていたけれど、まだ大事な言葉を一つも伝えていない。 俺は息を吸い込んで口を開く。 遥はうつむいて地面をじっと見つめた。 周りにクラスメイトがいるけれど、そんなのはもうどうだってよかった。 「俺はお前との関係をやめる気はないから」 「別にいいじゃん、遥も母親も大事にするし」 「俺、遥が好きだよ、お前じゃなきゃだめだよ。」 そこまで一気に言う。顔が火照ってるのがわかる。 すると、困ったようにうつむいていた遥が顔を上げた。 その目は涙で滲んでいた。 「ばかじゃん、わたしがせっかく」 「いいから」 そう言うと遥の腕を引き寄せて抱きしめると、栗色の髪の毛を撫でた。 あの日と同じ甘いシャンプーの匂いがして、俺思わず小さく笑う。 周りが囃し立てる声を微かに聞きながら 遥をじっと見つめる。 「あーあ、約束したのにな。」 「俺との約束が先だろ。」 そう言ってポケットからシロツメクサの指輪を差し出すと 遥は俺を見て、戯けたように笑って左手の薬指にはめた。 fin.
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