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行きと同じように帰りも遥はずんずんと進んでゆく。 その後ろ姿を見つめながら、俺は遥の気持ちがわからずにいた。 遥は昔から大事なことは俺に話してくれた。 自分は女だということ、そのせいで家庭がギスギスしていること、 だから自分を偽って男として生きようと思ったこと、 けれど俺の前では女でいさせてほしいと言ったこと。 いつだって俺に話してくれた。 けれど、核心に触れずに俺の前からいなくなってしまう。 当たり前のように隣にいた遥がいなくなってしまう。 そのことを考えると胸がズキズキと痛んだ。 遥は俺の気持ちを知っている、知っててあえて言わせないようにしている。 東京に行くということはもう自分に嘘をつくことをやめたということではないのか。 ならどうして俺の気持ちを聞こうとしないのか。 答えが出ないまま、電車に揺られあっという間に地元に着いてしまった。 肌寒い夜道を並んで歩き続ける。会話もないままお互いの家の前に着く。 「じゃあ、今日はありがとな」 やっと遥が口を開いた。 俺は頷いて、おやすみ、とだけ答える。 遥もおやすみ、と微笑むと手を振って家の中に入っていった。 遥を見届けて俺も家に入る。 「おかえりなさい、どこ行ってたの?」 ドアの音に気付いた母親がリビングから出てきた。 「友達と遊んでた」 「まさか遥くんじゃないわよね?」 母親が急に険しい顔つきになる。 「だったらなんだよ」 「あの子、東京に行くんでしょ」 「それがなに」 なにが言いたいのかわからずに苛々して少しぶっきらぼうに答える。 すると吐き捨てるように母親は続けた。 「うちの俊にもう近づかないでってお願いしたのに」
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