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「は???」 母親の言葉に思わず睨みつける。 「だって、あの子変じゃない。あの子と一緒にいたら俊まで変な目で見られるから東京に行くならもう関わらないでってお願いしたの」 「なんで勝手にそんなことするんだよ?」 「なに怒ってるの?」 「怒るだろ、意味わかんねえよ!いつもほったらかしのくせにそういう時だけ干渉してんじゃねーよ!」 その言葉に傷ついたような顔をする母親を残し 俺は二階に駆け上がると遥に電話をかける。 3ゴール目で小さくはい、と声がした。 「お前なんで言わないんだよ」 『は?』 俺は苛立ちを声に滲ませてそう言うと、遥は戸惑ったような声で答えた。 「俺の母親のこと」 『ああ、聞いたんだ』 「聞いたんだ、じゃねーよ、なんで言わねえの」 『言ったら意味ないじゃん。』 遥はなんで怒ってんの、と呟く。 「怒るだろ、普通。なにも話さねーし」 『言ったら意味ないからだよ』 同じことをまた言う。 『しょうがないよ、言ったでしょ、わたしは俊に幸せになってほしいって』 「俺の幸せを勝手に決めんなよ」 『なっ……』 遥は何か言おうとしてそのまま口をつぐんだ。 「お前が必要だって言ってもそんなこと言うの?」 『それじゃだめなんだよ』 「親なんて関係ないだろ」 『関係あるよ。それにさ、それに……』 そう言って遥は少し迷ったように言葉を切ると、息を吸って泣きそうな声で続けた。 『わたしが言えたことじゃないけど、親は大事にしなきゃだめだよ』 遥が言うその言葉に俺はなにも返せずに、 じっと立ち尽くしてしまった。 『そういうことだからさ、今日一緒に過ごせて楽しかったから、十分だよ。ありがとね』 おやすみ、と言って遥は電話を切ってしまった。 俺は携帯の画面を見つめながら、訳もわからずに呆然としていた。 消失感とやるせなさがこみ上げてきて、携帯の画面にぽつりと雫が垂れる。 ただひとつ、俺は失恋したんだという事実だけが 胸の中でじわじわと大きく広がっていって、 もうどうすることもできずに立っていた。 結局俺は遥を抱きしめることも、 あの栗色の髪の毛を撫でることもできなかった。
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