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「ねえ、かけおちごっこしよ」
休日の昼下がり、隣に住む幼馴染の遥(はるか)が悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言い放った。
家の前にいるから開けて、というLINEを見て玄関を開けた矢先のことだった。
「は?なに言ってんの、お前」
「いいじゃん、俊(しゅん)どうせバイトなくて暇でしょ、そう言ってたじゃん」
「そういうことじゃなくて」
呆然としている俺の手を、いいからいいから、とぐいぐい引っ張る。
栗色の髪の毛からいつもと違う少し甘いシャンプーの匂いがして、
その匂いに引っ張られるように玄関の外に出てしまった。
「わかった、わかったからさ、着替えるから待ってろよ」
「やったー」
遥を玄関の外に残して家に入ると階段を駆け上がる。
部屋に入ってふと思う、かけおちごっこ?なにをするんだ?
頭の中にハテナを浮かべながらとりあえずダルダルの部屋着を脱ぎ捨て
適当に服を着るとカバンを持ってまた階段を降りる。
休日なのに俺の家には誰もいないことがザラだった。
それを寂しいと思ったことはないけれど、誰もいない家の冷え冷えとした感じは
いくつになっても慣れないな、と思う。
そんなことを考えながらドアを開けると外で待っていた遥と目が合った。
にっこりと笑うと、いこ、と一言言って俺の手を引いた。
「なあ、思ったんだけど、かけおちごっこってなに?なにすんの?」
「なんでもいいの、とにかくここじゃないどこかにいこう。」
「どうしたんだよ、お前」
「いいから、いいから」
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