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俺の手を引っ張りぐんぐん駅へと向かう遥の横顔を見つめながら歩いていく。 「遠出するのはいいけど手、離せよ」 「なんで」 前を向いたままの遥が答える。 横顔だけでは表情がわからない。 「なんでっておかしいだろ」 「気になる?」 「お前のために言ってんだよ」 その後を俺は続けられなくて口ごもる。 すると遥は立ち止まりこちらを向いて瞬きをすると、ごめん、と言った。 「ごめん、悪かったよ」 もう一度謝ると、ぱっと手を離し今度は俺の隣に並んで歩き始めた。 その歩幅に合わせて俺も歩き出す。 「嫌なことでもあったわけ?」 「そういうわけじゃないけど、もうすぐ卒業じゃんか」 「だからなんだよ」 「卒業までにばかなことのひとつやふたつやっておかないと」 そう言ってまた悪戯っぽく笑った幼馴染を見て整った顔だな、とふと思う。 睫毛が長くて、色素が薄いせいか肌が白くて大きな目が猫みたいだな、と昔から思っていた。 男男していて真っ黒に日焼けした俺とは真逆だった。 「なに、まじまじと見て、きもいよ。」 「うっせーな、見てねーよ」 「見てた、見てたって」 そう言って遥は笑った。 相変わらずなにを考えているのかわからないけれど すっかりペースに乗せられて、駅まできてしまった。 「一番遠くまで行こう」という遥の言葉に乗せられ、 地元から一番遠くの駅の切符を買う。 改札を抜けて電車を待つ間、遥はなにかを振り切るように 遠くをじっと見つめてなにも言わなかった。 俺もなにも言わずに同じ方向をぼんやりと眺めていた。 「なあ」 ふと思うことがあって遥の方を見てそう声をかける。 「なに」 やや間を置いて短くそう答えた遥の目をじっと見つめる。 遥はこちらを見ようともせず、ずっとずっと遠くを見つめたままだった。 「なんで東京の大学にしたわけ?」 「学びたいことがあったから」 「こっちの大学じゃだめなの?」 「だめなの」 一向にかけおちごっこっぽくならない会話をぽつぽつと続ける。 けれど、今遥に一番に聞きたかったことだった。 遥が上京することを知ったのはつい最近のことだった。 それも本人からではなく親に聞いたのだ。
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