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「寂しい?」
遥はこちらを振り返ると少し緊張した面持ちで尋ねた。
「そりゃあ、まあ、少しはな」
「少しかよ」
鼻で笑うと遥はまた前を向いた。
電車がまもなく到着するアナウンスが流れる。
ホームに滑り込んできた電車の風で遥の髪が揺れた。
また、あのシャンプーの匂いがする。慣れない甘い匂いにまた戸惑っていると
乗るよ、と言って手を引っ張られた。
「子供じゃねえんだから、1人で乗れるよ」
「ぼーっとしてるから」
「はいはい」
軽口を叩きながら空いてるスペースに腰掛ける。
「着いたらどうするんだ」
「うーん。わかんない」
向かい側の窓をじっと見つめて遥は答える。
なにを見ているんだろう、なにが見えるんだろう。
ただの景色なのになにがそんなに気になるのか、
わからずにじっと遥の目線の先を追う。
もうすぐ日が暮れるな、なんてぼんやり外を見る。
ふと幼い頃のことを思い出す。
俺と遥は5歳だった。2人で公園で遊んでいる。
遥はシロツメクサで花冠を作るのが好きだった。
俺は遊具で遊んだりサッカーをしていた方が好きだったし、
幼稚園でもそう言う遊びばかりしていた。
でも遥といる時だけは遥の遊びに付き合うのが暗黙の了解だったし、
なぜかそうしたいと思っていた。
いつだって遥に振り回されていた気がする。
「俊くん、ゆびわ作ったの、あげる」
幼い遥が小さな手で歪なシロツメクサの指輪を手渡してきた。
「ありがと」
俺はそれを受け取ると人差し指にはめた。
「くすりゆび、じゃなきゃ」
遥が少し拗ねた顔をする。
「けっこん、するでしょ」
「うん」
「なら、くすりゆび」
そう言って俺の指から指輪を取ると、薬指にはめてにこりと笑った。
それを見ていた母親が遥に少し困ったように笑いかける。
「だめよ、遥ちゃんは俊と結婚できないわ、だってーーー」
「ーーーしゅん」
「俊、起きて、降りるよ」
「あ?ああ」
気がついたら微睡んでいたらしく遥に揺すり起こされる。
なにか夢を見ていた気がするけれど、思い出せない。
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