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「おー」
思わず、声が出た。
窓の外を見ると、昨日降った雪が朝日を浴びてキラキラしている。
まだ誰も踏んでない一面の銀世界。早起きは三文の徳、とかよく言うけど、今日は本当にそれをよく感じる。起きてすぐにこんなに綺麗なのを見られるなんて、何だか幸先いいかも知れない!
まだ寝ているお父さんを起こさないようにそっと部屋を出て、いつものようにマーガリンを塗ったトーストを食べる。本当ならスクランブルエッグも作って食べたいところだけど、今日はそういうこともできないから。
準備もして、と。
「行ってきます」
そっと呟いて、玄関のドアを開けた。
「う~、寒い……」
平日ではあるけど、電車があまり来ないこぢんまりとした駅に立ち寄る人は限られている。大抵の人は市内にある別の――もっと本数も多くて便もいい駅を使うから、待合室のベンチは、今わたしだけの特等席だ。
「早く来ないかな~」
暖房がついてるから外よりはあったかいけど、吐いた息が白くなるくらいには寒い待合室から外を眺める。……まだ来ない。壁にかかったカレンダーを見る。
2月14日、水曜日。
今日は年に1度のバレンタインデーだ。
いつもだったら、好きでもないのも含めてクラスの男子にチョコを配ったり、そういうカモフラージュの裏で友達とも牽制しあったりする、イベント気分でいられる以外は特に面白みもない日だったけど。
でも、それも去年までの話。
今年は、彼と出会って初めてのバレンタインデーだから。
今か今かとずっと待ってた日。
せっかく彼に食べてもらうんだし、きっと市販の方がおいしいってわかってはいるけど、やっぱり手作りのを渡すことにした。気持ちの籠もり方が違うし、愛情たっぷり(自分で言ってて恥ずかしくなってきた)の隠し味も入れてあるからね!
ちょっとずつあったまってきた待合室の中で、携帯を見ていたら、ドアがガラッって音を立ててやって来た。
藤島くん――この冬に付き合い始めた、わたしの彼氏だ。
「ごめん、おまたせ!」
走ってきてくれたのか、小刻みに吐き出される息は向こう側が見えないくらいに真っ白だ。そして、「じゃ、行こうか」と言って私の手を取る。きっと、いつもの場所に向かうんだ。
弾んだ心のまま、新雪を踏みしめる。
「ねぇ、ちょっと」
ふと、後ろから声をかけられた。
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