1.まちあわせ

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「えっ」  聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのはお父さんだった。眠たそうな顔をして、でもその眼には妙な力があって。 「姫奈、どこに行くんだい? それに、その人は?」 「えっとね、お父さん。この人は、」 「姫奈さんとお付き合いさせていただいている藤島です」  なかなか答えられないでいるわたしの前に出てきて、藤島くんがはっきりした口調で言う。 「そっか、藤島くんか……、なるほどね?」  お父さんの目が、すっ――と細くなる。  あぁ、こういうときのお父さんは、すごく怖いお父さんだ。  どうしよう。こんなことになるなんて思ってなかったから、ちょっとだけ焦る。 「そうか、姫奈がお世話になっています。姫奈の父です」  でも、思ったよりもずっとにこやかな顔で藤島くんに挨拶してくれた。あんまりいい笑顔だから、それでよかったのにびっくりしてしまうくらい。そして、そのまま来た道を戻っていく。 「いや、何か変な人に捕まってるんじゃないか、とか心配になっちゃってさ。それじゃ、また後でね」  笑顔で手を振って歩いていくお父さん。  積もった白い雪に刻み付けられる、革靴の跡。  それを見つめる藤島くんの視線はどこか険しかったけど。 「ありがと」 「……うん」  小さく囁いた言葉に返ってきた返事は、優しかった。  藤島くんに手を引かれて雪の街を歩きながら、ほっと胸を撫で下ろす。あぁ、よかった。  よかった、わたしの心が普段通りのままで持って。  危なかった。  彼氏と歩いてるところをお父さんが見る。  ずっと夢に見ていたような光景を目の前にして、おかしくなりそうだったから。 「ん、すっごいにやけてるけど、どうかした?」 「ううん、これからどこ行くのかなって楽しみなんだ♪」  バレンタインデーは、まだ始まったばかり。
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