2.チョコレート

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「ごめん、おまたせ」  わぁ、やっぱり待たせてた! 申し訳ない気持ちになりながら駅の待合室に入った俺を出迎えてくれたのは、姫奈の弾けるような笑顔で。申し訳ないには申し訳ないんだけど、そんな顔を見たらついつい浮かれてしまう。  今日は、彼女と過ごす初めてのバレンタインだ。  楽しく過ごしたい。そう思いながら、姫奈の手を引いて目的地――チョコレート展覧会が催されている市民ホールへ向かって歩き始めたとき。 「ねぇ、ちょっと」  少し低い、だけどどこか甘い感じの声に引き留められる。  振り返った先にいたのは、そんな声がよく似合う男の人。そこそこの年齢であることはわかるけど、雰囲気はどこか若いし、はっきり言って普通にかっこいい。どこかの雑誌でモデルをやっていると言われても納得できるような見た目の人だった。  そんな人が「姫奈、どこに行くんだい?」と声をかけてくる。 「えっと、お父さん。この人は、」  どこか威圧感のある眼差しから彼女を守りたい。その一心で姫奈の前に立って、俺ははっきりと自分が姫奈と付き合っていることを告げた。  結果、その人――姫奈のお父さんは納得したような笑みを浮かべて、立ち去って行った。  いや、途中で「変な人」扱いされたのにはあんまり納得いってないけど。俺、今日そこそこキメて来たつもりだし。雰囲気だってそんな怪しくないだろ?  それでも、姫奈からかけられた「ありがと」という言葉で、またそんな気持ちも報われたような気になって。  我ながら単純だなぁ。  そう思いながら、ニコニコと隣を歩いてくれる姫奈の可愛さを堪能しつつ、俺の足は市民ホールへと向かって行ったのだった。
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