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市民ホールでは、チョコレート展覧会が開かれていた。もちろん、姫奈がここに来たがっていたのはよく知っている。案の定、とても喜んでくれた。
あぁ、そんな顔してくれるなら、色々かかった手間もしっかり報われたな……!
用意していた猫のぬいぐるみを渡して、その代わりに俺は姫奈の手作りチョコを受け取れて! もう、幸せしかないなぁこれは!
その後、泊まったホテルで姫奈から訊かれた。
「でも、すごいね藤島くんは。なんでわたしの行きたいとこわかったの? だって、わたしチョコ展覧会に行きたいとかたぶん学校の友達にしか言ってないのに」
「姫奈のことなら何でも知ってたいから、かな?」
「へぇー。じゃあ、あとは?」
こういうときの姫奈は、照れ隠しをしたがる。
そんな彼女の態度に思わずにやけながら、「俺のこと好きでいてくれてること」と答えた。すると、ちょっとしたり顔で「ブー、はっずれー★」と笑いかけられる。
「えっ!」
思わず動揺した俺に、姫奈が可愛らしい笑い声を漏らす。
「正解は……大好き、でした~! 藤島くんも、ずっとそうだよね?」
尋ねられた言葉には、逆らえやしない。それに、俺の本心なのだから。
「もちろんだよ」
優しく微笑んで答えた俺に、姫奈はまた喜んだように身を震わせて、ほっぺたにキスをしてくれた。意外と頬っていいな、なんて思ったりもして。
安アパートの部屋に帰る。
ぼろっちぃ電灯を点けると、目の前には愛する家族の姿がある。俺はみんなに言うんだ、「ただいま」って。
もちろん、何も返って来ない。
それでも幸せなんだ。
噛み締めるように、もう1度声をかける。
「ただいま、姫奈」
壁を埋め尽くす何人もの姫奈が、色々な表情でこちらを見ている。もちろん、動きはしない。今日会った生身の姫奈にはこの写真たちではとても敵わないけれど、ずっと一緒に過ごした大事な存在でもあるんだ。
きっと気付いてなかったろうね、君と付き合う前から、俺がここまで想っていることには。
長年、こうして写真で見ることしかできなかった姫奈に、触れていられたんだ。
うん、やっぱりバレンタインデーって最高だな!
思わずにやける頬を隠す理由なんて、俺にはなかった。
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