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「……ふぅ」
立ち上がり空を見上げれば、朝と変わらない分厚い雲に閉ざされた鉛色。
いくらカイロを大量に仕込んでいても、動かずにずっと座りっぱなしの身体は結構辛い。
「思ったより冷えたな」
こんな日は小さな手と手を繋いで歩いてたのに──。
自分の掌を見つめながら歩く僕の独り言は、吐息と共に空に溶けてゆく。
──
────
病院の中は一歩入っただけで、別世界のように暖かく、冷えた身体を少しずつ熱を帯びる。
「おかえりなさい。」
「ただいま」
「外寒かったでしょ?」
「ええ、かなり」
「今日は雪が降るかな~?」
「どうかな?すごく寒いけど。」
病室に戻る間に色んな人と言葉を交わす。
「あ、黒束さん。おかえりなさい、ちょうどお昼ご飯ですよ」
病室の前に置いてある『外出中』の札を反転させていると白根さんの同僚の看護師が昼食を持って来てくれた。
「ありがとうございます」
お礼を行ってトレイを受け取ると彼女は「いえいえ」と笑ってから仕事に戻った。
とりあえずトレイをサイドテーブルに置き、上着をハンガーにかけベッドに腰かける。
「ふぅ」
ベッドに座った時のギシっと軋む音が、洩れたため息と重なり、疲労感が強く、思った以上に自分が疲れている事に気付いて、昼食を食べる前に少し横に転んだ。
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