冬の幻 、重なるシルエット

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 3月になり冷たい風を纏いながらも、空気が優しくなる。  ぼちぼち花壇にも色味が増え、もうすぐ桜も咲きそうだ。  ベンチまで持って来るカイロの量も段々減ってきた。  傍らに立つ時計をちらりとみて、もうすぐかな?と心も身体もソワソワしだす。 来た!  「おじさーん!」  分厚い上着がなくなり、少しだけ薄着になったが、それでもモコモコと着込んだ[ハナちゃん]がキラキラとした笑顔で僕に手を振ってくれるから、僕も笑って手を振りかえす。 『パパー』 勿論、[ハナちゃん]に映る瑚白も僕に手を振ってくれている。  だが、やはり[ハナちゃん]の後ろに立ち、僕にお辞儀をする母親に、亜黄の面影はない。 ……そらそうか。 彼女はいつも見知らぬ僕に、気まずそうな顔をしながらお辞儀をするから。  端から見れば、僕はずっとこのベンチに座り、[ハナちゃん]を見ているだけ。 彼女にはきっと不愉快な思いをさせているんだろうな。 そう思うと罪悪感がのしかかる。  亜黄にも会いたい──── 。 いや、瑚白に会えるだけでも幸せなんだ。 これ以上の高望みなしちゃいけないか。
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