冬の幻 、重なるシルエット

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 「はっ!はぁっはぁっ……」 思い出したくない光景を目の当たりにし、勢いよく飛び起きる。 「はぁっ、はぁっ、はぁ」  まただ。 またあの日の夢だ……。 目の前で、けたたましいブレーキ音と衝撃音と共にゆっくりと、まるでスローモーションのように空へ飛ばされる妻と娘。 あの光景が脳裏に焼き付き、1年経った今も時たま夢に見る。  「うっぐ!……くっ」 乱れる呼吸を整えようとした時、胸に痛みが走り右手で強く抑えこむ。  「…………ふぅ」  しばらくして漸く痛みが緩和したので、ベッドから足を投げ出し、上体を倒し、ベッドの横のサイドテーブルに備え付けられている小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、渇ききった口に流しこむ。 流し入れたミネラルウォーターが、すぅーっと身体に溶けこんでいく感覚を全身で感じながら辺りを見渡す。  なんてことない、見慣れた白い部屋。 消毒やら色んな薬品のにおいが混じり、何年経っても居心地は良くならない。  窓から外を眺めれば、雪でも降るのだろうか? 空はどんよりとした鉛色をしている。  僕は何故生きているんだろう? 最愛の家族を失ってもまだ、生き長らえている自身に腹が立つ。 ……あの曇天もいつかは晴れるように、僕の心が晴れることはあるのだろうか?
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