探偵助手のおやつは、おやきです

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 先ほど拾い上げたリボンを無言のまま紗川に差し出す。  紗川は黙って受け取るとそれで髪をまとめた。 (何なんだよ、このこだわり……!)  背が高く、程よく筋肉が付いている紗川は、誰もが口をそろえてスタイルがいいという。  市販では袖と丈が足りないらしく、着ているスーツは全て老舗ブランドのオーダーメードだ。  呆れている三枝の前で、ようやく通話を終えた紗川が首を傾げた。 「なんだ?」 「あの……せめて来客時くらいまともなゴムとか使いませんか。ケーキの箱についてた黄色いリボンとか、かっこ悪いんで」  無駄だと分かっていながら、最後の抵抗とばかりにコーヒーと一緒にゴムを差し出す。  紗川はコーヒーだけを受け取り、一口飲むと、深く息を吐いて長い前髪をかきあげた。そしてにやりと笑う。 「やれやれ、分かっていないな、三枝君。物事はメリハリがあるほうがいい。あえて気を配らない、無造作が粋と言うものだ」 (いや、すみません。それは分からない方がいいような気がします)  上司が相手だけあって、ツッコミは心の中だけにとどめておくことにした。  即座に口をついて出さなかったのは、せめてもの情けと言うものだ。 「ところで三枝君。上の棚は見なかったか? そっちを使って構わない」  三枝は頷いた。パッケージには手書きでマンデリンG1、100グラム1400円と書いてあった。 (やった、気になってたんだよなー)  一も二もなくうなずく。 「コーヒーメーカーでいいなら、お客さんが来たら出せるように今から作っておきます。あ、頼まれてたもの買って来ましたよ。お茶請けの芋ドーナツと、お使い物用にさつま芋パイです」 「助かる。領収書は後で――」 ――ドンドン  ガラス戸を叩く音がする。二人はほとんど同時に振り返った。  すっかり色あせたカーテンに、人影が浮かんでいる。 「来たようだな」  紗川は自ら歩み寄り、カーテンの隙間から相手を確認し、戸をあけた。 「やあ、どうも、紗川さん」  陽気な声を上げて小柄な男が入ってきた。
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