お芋のドーナツ召し上がれ

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 コーヒーをセットして尋ねると、紗川は肩をすくめた。 「いや、彼は違う」 「え、でも……」 「昨日のセミナーで知り合って、車の話で気が合った」 「じゃあ、お使い物のお菓子は何なんですか? お茶請けはともかくとして」 「それは、依頼主向け……というよりも、念のためだな」  何かに備えておきたかったという事だろうか。 (まあ、いいか。それよりこっちはやることやらないとな)  客が戻ってきたときに備えて準備を整える。  準備と言っても、これ以上、三枝にできることは殆どない。 (さっきの人は依頼人じゃないみたいだし。俺、帰った方がいいかな)  探偵が必要としていないのに、助手が付きまとっていては迷惑だろう。  或いは、必要とされるような何かがあるのだろうかと内心首をかしげていると、再び戸が叩かれた。先ほどの客だ。 「いやいや、駐車場があって助かりますよ。ところで、そちらは?」  戻って来た客は笑顔のまま三枝を見た。 「彼の名前は三枝紬です。大正浪漫通りの和菓子屋、三枝製菓の跡取り息子で、本日の茶請けは彼のおすすめの品です。三枝君、こちらは岸俊夫さん」 「和菓子屋の跡取り息子がおすすめする本日のおやつですか。そりゃあ楽しみだ」  ハードルを上げられてしまった。 (先生っ! やめてくださいよ、マジで!! ドーナツは美味しいけど、人それぞれに好みってもんがあるんですよ!)  痩せすぎではないかと思うほど細身の俊夫にはドーナツはあわないように感じる。それよりも、まめ屋のきな粉豆の方が喜ばれそうだ。
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