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ならば探偵助手としてしっかり話を聞いている必要がある。
しかし三枝は無関心を装って動き、話の邪魔にならないよう静かにカップを置いた。立ち上がりぎわに紗川をちらりと見ると、小さく頷いる。
これは合図だ。
三枝は自分の椅子に腰を下ろした。
「心配しすぎだと、紗川さんは笑うかもしれませんが、私は気が気ではないんです。妻が殺されるのではないかと」
ため息混じりに言う俊夫の顔からは、最初の明るさが消えていた。
「妻に言い寄る連中は異常です。あいつらは妻が身につけたもの、触れていたものを真っ先に欲しがる。妻を――美子を自分のものにしたいと思っているんです。これを見てください」
俊夫はスマートフォンを操作してSNSを表示した。
「これは、うちのショップのページです。男性ユーザーと思われるリプライが複数ついています」
三枝も身を乗り出してそれを覗いてみた。
まるでアイドルに群がるファンのように、写真を絶賛している。
(あー……こりゃ、勘違いするな)
ホームページで商品よりもモデル――妻の良子がメインになっている写真が多い理由が分かった気がした。
SNSのフォロワーたちは、商品よりもモデルになっている女性を見ていたからだ。
セクシーなポーズや、きわどいところまで見せている写真には特に多くの称賛の言葉が寄せられている。
入浴剤やランタンの紹介では、美子が入浴している写真があげられているため、それが顕著だった。
「妻にはこういう写真は控えるよう言っているのですが、一向に聞き入れる様子がありません」
「彼女にしてみれば、評判がいいのになぜ辞める必要があるのか、という事でしょうからね」
「そうなんですよ。それに、店の住所を公開していますから、実際に来てしまったことも何度もあります。交際を断ったら罵倒されたり脅されたこともあったようでした」
俊夫はため息をついた。
「妻は、女が店をやるからにはそういう客が一定数いる事は仕方がないと言っていますが、放っておいていいはずがない。脅しの言葉も『死ね』『殺すぞ』と過激ですし……」
「なるほど。それは心配です」
「紗川さん、そう思っていただけるのですね。お願いします。うちに来て妻に会っていただけませんか」
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