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土曜の午後、三枝紬(さえぐさつむぎ)は高校の裏門手前で足を止めた。懐に抱えた温かな紙袋を制服のジャケットで隠す。
ここが難関だ。
(ここを使ってる教師は五人。そのうちの三人は駅前に見回りに行ってるから大丈夫として、問題は第二校舎に向かう顧問の先生たちだけど……)
校門付近のアスファルトをよく見ると、土のタイヤ痕があった。
アスファルトが敷いてある場所は来客用で、教師用の駐車用は舗装されていない。一人はすでにこの門を通った後という事だ。
(俺じゃ、タイヤ痕からあたりをつけるなんてできないからな……)
タイヤの太さからSUVか軽自動車か程度はすぐにわかるようになると言われたが、高校生の三枝にはそんな芸当はできない。
耳を澄ませてエンジンの音が校内から聞こえてくるかどうか警戒するのが関の山だ。
(とりあえず、出てくる気配はなし、と)
何食わぬ顔で裏門の前を通り過ぎ、十分距離をとったところでようやく息をついた。
三枝の学校は校則が厳しい。下校中の買い物はもちろんのこと、寄り道も厳重に禁止されている。
土曜の放課後は、あちこちで生徒と教師の知恵比べが繰り広げられている。今のところ、三枝の戦歴は全勝だ。
ここさえ通り過ぎてしまえば、危険はほとんどない。
住宅街の細い道を進んでいくと、やがて石畳の細い道にぶつかった。寺をはさんだ向こう側は蔵造のまちなみが情緒を誘う一番街だ。
(さて、と。ここまでくれば、大丈夫だよな)
三枝は手に持っていた包み紙を開いた。
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