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「そうだな。あとは、カフェのオープンがある」
「カフェ?」
「大宮駅に向かう道は渋滞がひどいが、駅から離れてしまえばそうでもない」
「あ、そうですね。カフェのオープンとかで道が混んでなかったら、こんなことはなかったわけですし」
紗川は苦笑いしているだけだった。
「そういえば、先生はこっちに来る前に被害者と電話してたんですよね。なのに、被害者の様子は来客用の感じじゃなかったですけど」
「いつも通りにしているようにと言ったんだ。岸さんに警戒されたくなかったからな。しかしそれがあだになった。『いつも通り』と言われてどうするのか、先に聞いておかなかったこちらの手落ちだ」
足はフットバス、手はマニキュアと、手も足も自由が利かない状態では、後ろから近づいてスカーフで絞殺すのは容易だっただろう。
それに「いつもと同じ」という事は、計画の練りやすさにもつながる。
「三枝君は聞いたことがあるか? 最近の推理ものでは、探偵は死神扱いされるらしい。探偵のいく先々に、死体が転がっているからだそうだ」
「そりゃ、事件もので事件が起きなかったら話が動かないですからね」
「なるほど」
ふと、三枝は木崎が言っていたことを思い出した。
「ということは、先生が探偵を辞めたら、毎日平和です」
「辞めたら、か」
「そうです。でも、俺みたく、探偵に助けられた人間もいるんで、そこのところ、お忘れなく」
「そうか」
紗川はアメリカーノをドリンクホルダーに置くと、ウインカーを出した。
川越に帰るなら、このまま直進のはずだ。
「仕方がない。今日は君の手に乗ってやることにしよう。そこのファミレスに入ってやる」
三枝が喜んだのは言うまでもない。
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