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様々な種族の者が行き交う、幻世界のとある街。
賑やかな通りを少し外れた路地裏は薄暗く、不気味さを漂わせていた。
その一角にある廃材置き場で、ボロボロになった布袋にくるまれた何かがモゾリと動いた。
辛うじて外が見える穴から覗いたのは、赤い瞳。
両脇から圧倒するように建つ建物の間からは、青い空と綿菓子のような雲が浮かんでいる。
何を思ったのか、穴に爪が伸びた指を掛け、モゾモゾと蠢いて布からの脱出を試みる。
力を振り絞って袋を破り、出られるぐらいの大きさまで縦に裂いていく。
やっとの思いで袋から出ると、新鮮な空気を吸うように深呼吸をする。
見上げた空は、袋の中から見た景色より広くて、青かった。
暫く見とれていると、綿菓子のように白かった雲は、次第に灰色の雲へと変わっていく。
穏やかに吹いていた風は、冷たくて鋭い疾風が吹き付ける。
さっきまでの風景が突然変わって、ただ戸惑うしかなかった。
すると、大通りの方から悲鳴が聞こえ、そちらの方へ壁を伝いながら、覚束ない足取りで向かう。
途中、廃材に足を躓かせて転倒するが、それでも何とか立ち上がって進む。
漸く大通りが見えてくるが、何かから逃げているのか、人々が右から左へと流れていく。
“この先に進んではいけない。”
本能が、そう呼び掛けているように思えた。
周りに何処か隠れられる所がないか探していると、山積みになった木材を見つけ、その隙間へと潜り込んで身を隠す。
隠れられたとしても、悲鳴は絶えず聞こえる。
聞こえるもの、見えるもの全てから逃げるように、耳を塞いで、目を閉じる。
これが今の自分に出来る、精一杯の抵抗だった。
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