胎動

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太陽が真上に差し掛かる昼頃。 酒場の店主と女性は、夕方の開店に向けて、店の準備をしていた。 「昨日の連中はよく飲みやがったから、並べる酒がなくなってきたな。地下に行って取ってくる。」 「あ、手伝います。こっちも丁度終わったので。」 女性は箒と塵取りを片付け、店主と一緒に店の床の一角に設けられた地下に向かう。 床に空けられた窪みを掴んで引き上げると、薄暗い階段が地下へと延びている。 店主はランプの灯りを点け、階段を下りていく。 地下室にはワインセラーや酒樽がところ狭しと置かれていた。 女性が上からカゴを渡して、受け取った店主が何本か酒を入れる。 「樽も出した方がいいな。ロープを持ってきてくれ。」 「はい。」 店主が女性にカゴを渡そうとした時だった。 ズシン…。 小さく地面を突き上げるような揺れを感じ、女性は周りをキョロキョロと見渡す。 「今の…。地震でしょうか…?」 しかし、揺れは次第に何かが近付くように大きくなり、遂には棚の食器が落ちて割れる。 「きゃ…! な、何…!?」 「地下に入れ!! 外に何かいるぞ!!」 店主に手を引かれ、女性は地下室に逃げ込んで扉を閉めた。 「な、何が起きて…!?」 「分からない…。だが、外に何かいたのは確かだ。」 やがて揺れは収まっていき、微弱なものになっていった。 店主と女性は扉を少し開け、外の様子を窺う。 窓越しに見えたのは青い半透明な生物で、建物の高さを優に越える大きさだった。 「なんだ、あれは…!」 愕然とした刹那、青い生物が目映い光に包まれる。 店主と女性は咄嗟に扉を閉め、地下に身を潜める。 その直後、先程と同様の揺れが襲い、暫くすると何事もなかったように静まり返った。
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