胎動

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薄暗い空間。 ほんのりと灯された蝋燭の明かりが、ゆらゆらと揺れながら、静かに祭壇へと向かう。 祭壇の奥の壁には、赤いインクで描かれた紋様が明かりに灯され、浮かび上がる。 「もうすぐ、“選択”の時です。さぁ、もっと世界を見て、もっと知りなさい。そして選ぶのです。あなたが望む世界を…。」 優しく囁くような声が、誰もいない空間に静かに響く。 そして、蝋燭の明かりは消え、真っ暗な空間へと変わった。 「二つの翼を持つ吸血鬼だと?」 薔薇と合流したデュレイザは、両種族の翼を持つ子供の事を聞き、耳を疑った。 「私も初めて見ました。相容れない両者でも、こういう事ってあるんですね。」 「非常に稀なケースだ。魔界では何千年に一度あるかないかと言われるぐらいだな。だが、何故この街に?」 「それは分かりません。今は本部で治療を受けているので、回復次第、聴取します。そういえば、そちらはどうでした?」 「お前との連絡以降、もう少し調査したが全くだ。何の手掛かりもない。」 「そうですか。では、やはりこれしか…。」 薔薇は酒場の店主達から聞いた話をまとめた資料をデュレイザに渡す。 内容に目を通すと、デュレイザは眉を潜め、怪訝な顔を浮かべる。 「半透明の青い生物…? どういう事だ?」 「唯一の手掛かりです。突然現れたと思いきや、突然消えたそうで。」 「コレが街を壊滅に追い込んだ犯人の可能性がある…か。だがこれだけでは…。」 「決定的な証拠にならない。これまでに起きた襲撃をもう一度整理してみる必要がありますね。」
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