第二章 傷痕の独占

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「はい。うちの保健医の話では何らかのきっかけで巽くんが持っているトラウマが発動してしまい過呼吸になったという事です」 「....」 『トラウマ』がある事など容易に想像できる。 ほんの数ヶ月前に人を刺して逮捕されたのだ。 受けた簡易鑑定では責任能力なしと言われ、入院先では人形のようだったという。 実際に秀一が訪れた病院で見たのは巽の青白い顔、燻んだ金色の髪、生気のない笑顔であった。 まるで『太陽が消えた』ようだとその時の巽を見て思ったのだ。 だからこそ、環境を変えねばと直感してこちらに連れてきたのである。 『トラウマ』がある事など想像できるが、『何がトラウマ』なのかが秀一にはわからなかった。 事件の概要はわかっているのだが秀一には未だよくわからないのだ。 入院先の医師にも話を聞いたが姉の話と大差なく本当のところはわからない。 そんな風に巽の『トラウマ』となるものを考えていれば持田の気を使うような声が聞こえてきた。 「あの...失礼ですが、その真木さんは巽くんのトラウマに関しては何かご存知ないのですか? 」 デリケートな話である。 巽の過去を知るのがこの高校では教頭とこの担任の持田である為に彼はできるだけ対処しようとしているのかもしれない。 答えてやりたい気持ちはやまやまであるが嘘はつけない為に秀一は正直に答えた。 「......わかりません」 「そうですか...わかりました。出来るだけ私の方でも巽くんを気にかけるようにしておきますので」 持田の気を使う言葉に少しばかり情けない気持ちとなった。
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