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気づけばその場所は真っ暗な何もない空間だった。
金色の髪を靡かせながら首を動かす。
しかし、右を見るも左を見るも暗闇が続くばかりで特に何も見えない。
ふと、暗闇ばかりの空間の中で己の体に凭れる存在に気づく。
遠くばかりを見ていた視線の先をそっと手前にずらした。
目に入ったのは見慣れた茶色い髪の小柄な男。
「・・・・・ちゃん」
溜め息と同時にその名も漏れた。
辺り一面暗闇の中であったが腕の中の存在に酷く安心している己の鼓動を感じた。
自分よりも小柄な彼を抱え込み大事に抱き締める。
誰よりも何よりも大事だと思った人なのだ。
サラリと柔らかい薄茶色の髪が指先に絡み付き、ふわりと彼の匂いが鼻腔を擽った。
好きな彼の匂いに何だか涙がでそうだとどこか冷静に感じる。
泣いてはいけないとグッと唇を一文字にきつく結んだ。
「・・・くん・・あの・・・・痛い・・」
腕の中の愛しい存在がか細い声で訴えてきたので、強く抱き締めていた事を思い出せば苦笑しながら離れた。
「あっ・・・ごっごめん・・・」
離れていく体温に名残惜しさを感じながら、凭れかかっていた愛しい存在の顔を見ようと顔を下に向ければ、彼もまた此方を見上げていた。
眼鏡の奥の優しかった瞳が、三日月型で見つめてくる。
常の形相と違う姿に目を丸くして彼を見た。
愉しそうに歪んだ口許がゆっくりと開くと。
「君に刺されたお腹、ずっと痛いんだ・・・・」
愛しい彼が嗤って、自身の真っ赤な腹を擦った。
「・・ねぇ・・・ほら・・・ここだよ・・・」
か細い指先が己の手を掴むと赤く染まるその部分へと誘い、べたりと這わせた。
不意に鉄の匂いが包み込み、掌にヌルリとした感触が纏わりつく。
掌から這い上がる感触が脳へと伝われば漸く思い出した。
『・・・ああ、コレは俺が刺したんだ』
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