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バタンとドアを閉めればジャリッと地面に着けた足元から音が鳴る。
足元から音が上がってくるのと同時にふわりと感じたのは懐かしさであった。
足元へと向けていた視線をゆっくりと上げていく。
途中、金色の髪がパサリと揺れた。
髪の隙間から見えてくるシルエットは大きい。
漸く視線を真っ直ぐに見据えればそこには昔ながらの和風の家屋が佇み、正面に立ったままの巽を見下ろしていた。
「・・・・・ここ」
見覚えのある、懐かしさも感じる家を前に声が自然と漏れてしまった。
この場所に来るまでの道中、外を眺めていた巽の目には見覚えのないようなものばかりで知らない街のように感じていたがこの家を前にした途端そんな感情は消え失せる。
決して特別な家ではない。
田舎ならばそこかしこにあるような昔ながらの一軒家である。
しかし巽の自宅であった大量生産の建て売り住宅とは明らかに趣の違う造りに、まるで原風景を懐かしむような気持ちを味わいながら立っていれば背後から声を掛けられた。
「思い出したか?」
目の前の家屋をじっと眺めていた巽の隣にやって来た秀一。
「・・・うん。前と変わってないね」
変わっていないものの存在に何ともいえない気持ちとなり曖昧に笑った。
「ああ。ばーさんが居た頃と何にも変わってねえよ」
何にもなさそうにそう言うと秀一は巽の前を歩き始め家の中へと進んでいった。
離れていく後ろ姿を見ながら、その言葉に『変えていない』のかそれとも『変えたくないのか』。
『祖母』が居た頃なのか、それとも『彼女』が居た頃なのか。
それでもソレを無遠慮に詮索する気など巽にはなれなかった。
「誰だって触れられたくないこともあるよね」
自嘲するような笑みを浮かべる。
「おじさん・・・俺も一緒なんだ。俺にも・・・」
『俺にも閉じ込めておきたい過去があるんだ』
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