第一章 消えない記憶

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2 扉に手をかけてカシャンと閉めれば背後の一枚を隔てた向こう側でガタガタと大袈裟な音が鳴っていた。 秀一に声をかけようと慌てた反動かもしれない。 口許が綻ぶのは自然だった。 すぐ後ろでカチャリと施錠する音が聞こえた為にその場を後にする。 もし、この場に友人なり居れば16にもなるという男子高校生に過保護すぎだと笑われてしまったかもしれないなと秀一に苦笑するような笑みが溢れる。 しかし、この甥っ子はほんの数日前まで入院していたのだ。 その病室で見た巽の変わりように秀一は酷く驚いたのを思い出す。 多少思い込みの激しさはあったものの、まるで太陽のように明るく包み込むような笑顔がトレードマークだった筈が病室にいたのは無理矢理繕うように笑顔を向けてきた巽の姿であった。 しかも、外傷は無いと姉に聞いていた筈が何故か巽の鼻の下に赤い擦り傷が見え、右手には腫れを抑える為か湿布薬が張られている。 その湿布薬をベタリと貼られた手をジッと見つめれば青紫の痕が見え隠れしており目に焼き付いた。 そんなつい数日前の出来事を思い出せばポツリと唇から漏れる。 「そりゃあ過保護にもなるさ・・・」 既に湿布薬も剥ぎ取られたのか、巽の右手は裸のままであり未だ青い痣となっていた。 道中全く気にしていなかったのは痛みが引いているからなのか。 それともその青痣以上に痛むモノが存在するからなのか。 今の秀一に知ることはできなかったが、微かな甥っ子の『傷』を感じながらも途中抜けてきた仕事を再開するために車に乗った。
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