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『あれ? こんな車だっけ? 』
そう思うのも無理はない。
巽がこの地に訪れたのはかれこれ六年ぶりで、目の前の車を見るのもはじめてなのだ。
巽の前で停まったワゴン車は左の運転席から窓硝子をあけると巽を見下ろした。
見上げていた巽の瞳に写ったのは見慣れた人物で。
金髪に染めてばかりの巽とは対照的な黒髪。
切れ長の瞳も同じように黒光りしており、煙草をくわえたままうっすらと浮かべる笑みが大人の色気にも感じる。
その姿をぼんやりと見上げていれば程なくして男は口を開いた。
「おい、呆けてんじゃねえぞ。さっさと乗れよ」
その声にハッとなる。
男は笑いながら顎で右側の助手席へ行けといった。
「ごめん、ごめん」と軽く謝りながら反対側へと回りその車に乗り込めば、体勢を整えるよりも早く男は車を出した。
「仕事中なのにごめんね」
シートベルトをはめながら礼を言う。
男はその言葉にチラリと巽の方を向くとすぐにまた視線を正面へと戻し小さく笑いながら言った。
「可愛い甥っ子の為なら構わねえよ」
その言葉に巽もつい笑った。
「ふはっ、きも」
巽の言葉に「だよな」と男が笑う。
男は真木秀一。巽の叔父である。
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