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「ゆうちゃーん、お腹すいたー」
優衣は思わず部屋の中をのぞきこむ。靴が散らかっている玄関と同じように、部屋の中もおもちゃや服など、たくさんの物が散乱していた。
「あれ、俺の弟。まだ三歳なんだ」
「あんたが面倒みてるの?」
「そう。病気が治ったら保育園行けるけど、病気が治るまでは俺が面倒みてる」
「じゃあ学校来れないの?」
「学校なんて行かなくてもいいじゃん」
裕也はそう言うと、優衣に背中を向けて歩き出す。
――そんなのへん。学校は行かなきゃいけないんだよ?
「あ、お前」
突然裕也が振り返って優衣を見た。優衣の心臓がなぜかドキンと跳ねる。
「お前、なんて名前だっけ?」
「七瀬……優衣」
つぶやくように答えると、裕也がほんの少し笑って言った。
「ありがとな、七瀬」
優衣は黙ってそんな裕也の顔を見つめる。
裕也はプリントをひらひらと振って、玄関に立つ優衣を残し、部屋の奥へ入っていった。
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