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離れたくない、と彼女は言った。 僕もだよ、と彼も言った。 だけれど、彼らは別れなくてはならない。 なぜなら彼らは義理チョコだから。二つペアで作られて売られた。人形の形をした義理チョコだから。 本当のことを言うと、人形の形をしたというのは正しくない。形をした、ではなく人形以外の何ものでもないのだ。しかし人形であるということは、心を持たないということではない。むしろ心を持つようになったから人形なのだろう。いわゆる人間の心とは別のありようだろうが、それでも心は持っている。 文字通りチョコレート色の肌をした彼は、送り主の上司に贈られる。ホワイトチョコの白い肌をした彼女は、同僚に贈られる。どちらもただの儀礼だ。 しかし彼ら二人にとっては今生の別れだ。いずれにせよ、食べられて終わりに違いないのだから。 おそらく本来の味よりいくらか苦くなっているだろう。食べる人間はそれがなぜかなどと思いもよらないだろうが。
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