霖之助の独白 ――②

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 部屋に戻るとまず本棚を片付け始めた。もう読まないであろう本を数冊纏めて紐で縛る。二時間ほど作業して結構な量になった。自分の本も一冊だけ残して全て処分することにした。献本はいつも十冊と決めていたが、それも半分以上が手元に残っていた。配る友達もいない。営業を掛ける先もない。七冊分の献本はすぐに片付いた。纏めたそれを廊下まで運ぼうとしていた時、玄関のインターフォンが鳴った。手を止めて出るとよく知った宅配業者でA4サイズの封筒を手渡された。出された伝票に事務的に判を押してドアを閉める。そう言えば数日前に担当編集者から読者の手紙を自宅に送付すると連絡があったなと思い出していた。  純文学の作家にファンレターはほとんど来ない。来るのは自分の原稿を読んでほしいという依頼や異性からのラブレターが多い。それも今は編集部で止められるため、届くのは千冊売れて一人か二人がいいところだ。もらえるのは嬉しいが今日はなぜか恐怖を感じた。恐る恐る封筒を開けてみると中に開封された一通の手紙が入っていた。取り出してみて驚いた。それは奇妙な手紙だった。
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