『湊都の話』杉田霖之助

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 恋人の湊都の話をしようか。  こうやって肩の力を抜いて、自分のことを語るのも悪くない。諸悪の根源であるパソコンはガムテープでグルグル巻きにしてベッドの下へ隠した。捨てるのだってお金がいる。誰にも知られたくない個人情報が漏洩する可能性もある。そのほとんどはエロ動画のデータだが、湊都に知られるのも困る。湊都は優しいが嫉妬深く、独占欲の強い男だ。  ベッドの端で頭を打った。本当に面倒だ。便利さはとんでもない不便さを抱えてやって来るものだ。かと言って、原稿用紙に万年筆、インクはブルーブラックでと前時代的な文豪を気取るつもりもない。そもそもインクカートリッジの交換のやり方も知らないのだ。文机や着物やふてぶてしい猫を揃えるのも面倒だし、インク交換に失敗して手がゾンビのようになり、書いた原稿もダメにして頭を抱えているアホな自分の姿が目に浮んだ。そこは素直に原稿用紙に擦ると消せるボールペンで書き始めた。フリクションでノンフィクションを――。全く便利な世の中になったものだ。
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