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――やめてしまおうか。
廃業という言葉が頭をよぎる。人間をやめる前に、作家をやめるほうが健全な選択だろう。
自分は指先一本でこの世界にしがみついている、もう必要のない作家だ。一度きりの才能と一生分の運を使い果たし、今はベッドの上で転げ回っている。小説を書くのは好きだ。書かないと生きていけない。けれど今、その小説に半ば喰われそうになっている。
文章を捻り出す苦労は何度もしてきた。たった一行を手に入れるために血を吐くような努力もした。降りしきる雨の中から見えない一粒を見つけるような、そんな気の遠くなるような作業をずっと繰り返してきたのだ。自分には才能がないとのた打ち回っても、たった一つの言葉を見つけられた喜びは大きく、それを誰かと共有できた時は、窓から叫びだしたくなるほど嬉しかった。
けれど今は、その苦しさに耐えるだけの気力もなかった。
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