霖之助の独白 ――①

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 ――自分のことを書けと言ってもな。  スランプで小説が書けなくなった純文学作家がスピーディーなゲロを吐く話。一体、どこに需要があるんだろう。いや、そういうことじゃないのは分かっている。  恋人である湊都(みなと)のことを書けと元編集者の大窪は言っているのだ。  己の人生を見つめ直して、今の状況を整理し、これからの人生を考え直せと。  ――俺は幸せなんだ。  湊都がいなければ、自分の人生は入水ルートまっしぐらだっただろう。私生活は充実していて何の不自由もない。優しい恋人が衣住食、欲の全てを満たしてくれる。自分は本当に幸せなのだ。けれど、それは作家にとって不幸なことなのかもしれなかった。
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