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僕が身を寄せているばあちゃんの家は、私鉄の沿線沿い――というより駅で降りてすぐ目と鼻の先にある。
と、書いてしまうと何だか都会の一等地にそびえるタワーマンションなんかを想像されたりするかもしれないが、全然違う。ばあちゃんは北関東のさらに山奥、渓谷沿いを走るローカル鉄道の無人駅にある名物食堂を切り盛りしている。で、猫の額ほどの駐車場を挟んで反対側にやはりばあちゃんが管理人を務めるアパートがある。
と、書くとやはり不動産持ちのやり手女経営者を想像されてしまいそうだが、それも違う。駅員宿舎を改装した公営住宅の管理人役を委託されているだけだ。どちらも木造築ン十年だが、駅舎と統一された昭和風の外観はなかなか味があってお洒落だと思っている――いざ住んでみると冬は隙間風が入りまくりとかアオダイショウが住んでる疑惑とか色々あるらしいが。
ぼくの名前は来栖錦慈、アラサーに足を突っ込みかけている27歳フリーター。いや、「フリーター」を名乗れるのもばあちゃんとこで住み込みのバイトを始めたからで、本当は十代の時、一浪しても滑り止めのFラン大学にしか入れなかったあげくに大学でもぼっちになり、引きこもり→休学→中退というある意味お決まりコース。だから学歴コンプが酷い。
友人もおらずバイトすら探さず家事も拒否、万年髪ボサボサのスウェット姿で戦闘力ゼロの自宅警備員状態の一人息子に危機感を募らせた両親は、昔、店の手伝いと墓参りがてら避暑に出かけていた祖母の店で住み込みのバイト話を持ち掛けてきた。のんびりした場所だし周囲の人の人柄も温かい。何より気心の知れた身内の店なら勤まるのでは、と安易に考えたらしい。
実はこの話は「だった一人の跡継ぎ(うちはサラリーマン家庭なんだが)なのに行く末が心配だろう」と祖母から提案されたのだそうだ。
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